ヤマガタトラベル

ヤマガタを旅するように暮らす。

松山軒(酒田市)

松山軒は全てが最高だった。

濃厚スープにぶよぶよの極太麺。酒田市旧松山町の一等地に構えるお店の佇まいと店主のキャラクター。似たようなラーメンはたくさんあるかもしれないが、似たようなお店は一つもない、間違いなくオンリーワンのお店だった。 

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令和元年9月、そんな松山軒が閉店した。店主の体調が良くないという噂は聞いていたし、夫婦二人での切り盛りだったので、後継者難でいつかはこうなるということは誰もが薄々感じていたはずである。

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味覚というものは非常に曖昧な感覚である。物理的には同じ味だとしても、提供する環境が変わると受け取る側の感じ方も大きく変わってくる。好きな人がつくる料理、自然の中で食べる料理、朝から飲むビール、等々。それらには、普段食べる料理にプラスアルファされた何かがあるはずである。そういう意味では、松山軒はあの場所、あの店主、あの夫婦でなければ出せない味だった。どれだけ修行を重ねても、どれだけレシピどおりに調理しても同じものを出すことのできない、どだい事業承継することなどできない、店主の体力の続く限りのラーメンだったのだ。

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令和元年9月のあの日、突然店頭の貼紙を以って閉店した松山軒。もう、あのラーメンを食べることができないのはすごく残念だけれど、それ以上に店主夫婦に挨拶できなかったのが残念だったよ。長い間ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。

くるまやラーメン鶴岡店(鶴岡市)

人生で最も足を運んだラーメン店はどこだろうか。

実家の近くの馴染みの店か、それとも一人暮らしの際に通ったお店か。人それぞれ色んな思い出があるのだろうが、鶴岡市出身の40代ならばくるまやラーメン鶴岡店という人が多いのではないだろうか。

くるまやラーメン鶴岡店が開業したのは1990年頃。当時は今ほど郊外化が進んでおらず、まだ駅前や銀座通りといった"まちなか"が元気な時代だった。中太麺にニンニクの効いた味噌ラーメンとサービスライス、FC店ならではの居心地の良いボックス席は食欲旺盛な高校生にマッチしていたし、社会人になると飲んだ後に〆のラーメンを食べながらタクシーを待つことも多かった。ラーメンブームによる競合店の増加で足が遠のきつつあったものの、学生時代、そして社会人と、なんだかんだで最も足を運んだラーメン店なのだと思う。

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そんなくるまやラーメン鶴岡店の閉店の知らせを聞いたのは令和元年6月のことだった。31年間も続けてきた店を閉店するにあたっては色んな思いがあったのだろうが、後継者がいなければ廃業を選ばざるを得ないのはどの商売も同じこと。後継者難や事業承継の遅れは業種を問わず全国的な問題らしいのだが、この手のFC店こそ後継者難で事業承継が難しいのかもしれない。

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閉店前に最後に食べたのは味噌バターラーメンにコーンとサービスライス。学生時代に何度も食べた思い出の味なのだが、思いの外スープの味が単調で、この30年間でラーメンがどれだけ進化したかを考えさせられる。普通のラーメン店ならば「親父の味を守りたい」と事業承継を決意する後継者がいてもおかしくないのだが、FC店の場合は「親父の味」ではなく「FCの味」なのだから後継者難になるのもわかるような気がする。

閉店前の数日間は行列続きだったのは地元民からの感謝の表れなのだろう。長い間ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。

花のドライブイン(庄内町)

平成の30年間で衰退した業態に「ドライブイン」がある。

昭和の高度成長期、クルマ社会の進展とともに全国の幹線道路沿いに立ち並んでいたドライブイン。しかし、平成に入ると様相は一転し、経営環境の変化によりドライブインは減少の一途を辿ることになる。広い駐車場と特産品店、飲食店を兼ね備えた道の駅の登場。年中無休、24時間営業のコンビニエンスストアの普及。バイパスの整備、道路の高規格化、高速道路の開通による人の流れの変化。かつて幹線道路沿いでフリー客の入れ食い状態であったドライブインは平成の30年間を経て旧道沿いで常連客を相手にする知る人ぞ知るお店へと変化してしまったのである。

そんな衰退業種でありながら、庄内町余目町で根強い人気を得ているのが花のドライブイン、通称「花ドラ」である。

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JR余目駅から旧国道を新庄方面に向かい、陸橋を渡った先にあるのが花のドライブインだ。目の前の道路はかつては国道47号線と呼ばれていたのだが、2000年代前半に常万パイパスが開通して旧国道に格下げされ、2018年には常万バイパスと並走するように高規格道路として国道47号線余目酒田道路が開通。時代の流れとともに人の流れは変化し、現在は旧道のそのまた旧道沿いでドライブインを営んでいる。

この日は生憎の雨だというのに12:00前に駐車場はほぼ満車。店内に入ると一番人気はサッポロラーメンとのことだが、この日はホルモン定食をオーダーする。

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 ご飯と味噌汁、ホルモン、長芋、漬物がテーブルに並ぶが、特筆すべきはやはりホルモンだ。ぷりぷりのホルモンにカレー系の甘辛い濃厚なタレという組み合わせは中毒性が高く、ご飯が止まらなくなってしまう。また、食べ終わった後に付け合わせの長芋で口の中をスッキリできるのも良い。旧余目町はラーメンの激戦区でもあるのだが、ご飯物がほしくなるとついつい旧道のそのまた旧道沿いの花ドラに足を運んでしまうのだ。

 

名称:花のドライブイン

場所:庄内町常万字助惣124-1

営業時間:10:30〜14:20/17:00〜18:40

定休日:火曜日

駐車場:有り(店舗に隣接)

エンドー(山形市)

山形県ソウルフードの一つに「げそ天」がある。

主に内陸地方の食文化で、板蕎麦の付け合わせにげそ天。夕食のおかずにげそ天。ビールのつまみにげそ天。ラーメンのトッピングにもげそ天。他県の人には理解不能かもしれないが、山形県民とげそ天は切っても切れない関係にあるのだ。そんなげそ天に着目して一点突破を図っているのが山形市の食料品店エンドーだ。

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エンドーがあるのはJR羽前千歳駅の西口から徒歩1分。JR山形駅から2駅という郊外の住宅街にあるローカルな食料品店だ。車で5分とかからない場所には郊外型の大手SCが進出し、この手の食料品店が苦戦を強いられているのは日本中の至るところで見る風景だが、店舗の前に並ぶ「げそ天」ののぼりに強い意志のようなものを感じてしまう。

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正面入口からお店に入ると、入ってすぐの一等地にいきなりのげそ天コーナー。といっても、肝心のげそ天はなく、Tシャツや手ぬぐい、コラボの日本酒といったげそ天グッズが棚の大部分を占めている。どうやらげそ天は揚げたてを提供するので店頭には並んでいないようだ。げそ天をオーダーしようとすると、なんとフレーバーが9種類もある!この中から1番人気の塩レモンとブラックをオーダーしてイートインすることに。

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で、窓際のイートインコーナー。昭和の匂いが全開の年季の入った机と日本酒のケースに段ボールを被せた椅子がたまらないww昔はここも食料品売場で陳列棚が並んでいたのだろう。かつては小規模スーパーのような業態だったのだろうが、ニーズの変化に伴って在庫と棚を減らし、現在は惣菜を中心とした食料品店に姿を変えている辺りに食料品小売業の現実を考えさせられる。

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そして、オーダーしていたげそ天が到着。価格相応のボリューム感はあるが、一つ一つのげそ天はコンパクトで衣も油っぽくないのでサクサクと食べることができる。スナック感覚で子どものおやつに食べることができるし、ビールのつまみにしたら止まらなくなりそうだ。店主に話を聞いてみると毎月末の土曜日には「立ち呑みエンドー」を開催しているとのこと。山形市内のオシャレな飲食店が出店することもあるとのことで、こちらも行ってみたい!

エンドーの本業が食料品小売業であることは言うまでもないが、同業他社がそうであるように手作りの惣菜に力を入れている。つまり、正確には製造小売業であり、次々と新しいフレーバーやコラボ商品を開発する姿勢は大袈裟に言えば食品メーカーのような感すらある。加えて店内で実施する「立ち呑みエンドー」は完全に飲食業であり、モノだけでなくコトを提供する業態へと進歩している。食料品小売業を基軸にしながらも、げそ天に着目して製造業から飲食店まで業種を横断し、情報発信で商圏を広域化する事業展開には食料品小売業の可能性について考えさせられるのだ。

 

名称:エンドー

場所:山形市長町2-1-33

営業時間:10:00〜19:00

定休日:日曜日

駐車場:有り(店舗に隣接)





湯田川温泉正面の湯(鶴岡市)

これだけ寒くなると温泉に入りたくなる。

幸いにも山形県は全市町村に温泉があるという温泉県だ。温泉旅館だけでなく共同浴場や三セクの温浴施設も整備されており、仕事帰りにワンコインで温泉を楽しむことができるという素晴らしい環境。今回は鶴岡市の市街地からほど近い、開湯1300年の湯田川温泉共同浴場、正面の湯に行ってきた。

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湯田川温泉鶴岡市中心部から国道345号線を車で15分ほど行ったところにある「鶴岡の奥座敷」とも言われる閑静な温泉街だ。温泉街の中央を一本の目抜き通りが貫き、その両側に温泉旅館や土産屋が軒を連ねている…と言えば聞こえはいいのだが、ご多分に漏れず空き店舗が点在し、歩く人も疎らな鄙びた温泉街というのが現実である。

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その温泉街の目抜き通りの中心にあるのが正面の湯。昔ながらの瓦屋根の建物が独特の存在感を放っているので、歩いていれば気づかない人はいないと思う。正面の玄関から中に入ろうとすると、男湯/女湯の入口は鍵がかかっていて入れない様子。どうやら共同浴場のすぐそばにある船見商店で入浴料200円を支払って鍵を開けてもらう必要があるようだ。船見商店でそのことを告げて入浴料200円を支払うと、わざわざ店主が一緒に正面の湯まで歩いてきて鍵を開錠してくれる。

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そして、お目当の正面の湯へ。コンパクトな浴室に正方形の浴槽で、無色透明のお湯というシンプルな共同浴場だ。そして、期待していたとおり源泉掛け流しの豊富な湯量。共同浴場というと熱めのお湯を想像しがちなのだが、ここ湯田川温泉正面の湯は本当にいい湯加減でじっくりと湯船に浸かっていられる。というよりも、湯船からあがりたくなくなるのだ。聞いてみるとこの共同浴場は加水・加温・循環をしていない「天然掛け流し」という極めて純粋な天然温泉とのこと。まさに奇跡の湯だ。これは鶴岡市に来たら少し足を伸ばして湯田川温泉に行ってみる価値は十分にあるのだと思う。

 

名称:湯田川温泉 正面の湯

場所:鶴岡市湯田川湯元47

営業時間:07:00〜09:00/11:00〜19:00

定休日:年中無休

料金:200円(船見商店で入浴券を購入)

駐車場:有り(住民会・共同浴場駐車場) 

味な店成華(鶴岡市)

個人的にラーメンと言えばチャーシューメンである。

その店の味を知るのなら、まずは基本の中華そばを食べるべきという意見があるのは重々承知だが、食欲旺盛なので中華そばにチャーシューをたくさん加えたそれを選んでしまう。そして、ラーメンの好みが千差万別であるように、チャーシューの好みもまた千差万別。適度に水分が抜けて歯応えのあるシナシナチャーシューが好きな人もいれば、脂が乗ったトロトロのチャーシューが好きな人もいる。好みの問題なのでどちらがどうという訳ではないのだが、もしもホロホロチャーシューが好きな人がいるとしたら、鶴岡市朝日村の味な店成華をおすすめしたい。

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味な店成華があるのは鶴岡市朝日村の中心部にある鶴岡市役所朝日庁舎のすぐそばだ。国道112号線から大鳥方面へ200mほど入ると右手に広い駐車場と年季の入った看板が目に入る。店内に入ると昔ながらの大衆食堂の様相で、壁には市民スポーツ大会の表彰状が何枚も飾られている。どうやらこの店は地域住民の社交場の役割も担っているようだ。メニューはラーメンを中心にドリンクとサイドメニューが充実しており、早速チャーシューメンとチャーシュー丼を発注する。このお店は昔からチャーシューの評判が頗るいいのだ。

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チャーシューメンは麺、スープともスタンダードな出で立ちで、いわゆる"昔ながらの中華そば"。地域住民の社交場ということもあり、奇を衒うことなく永く愛されるラーメンだ。そして、特筆すべきは何と言ってもチャーシューだろう。柔らかくて口の中でホロホロと崩れていく食感がたまらない。ラーメンを食べ終えた後はチャーシュー丼をスープに浸しておじやにして食べるのがまたウマい。本音を言うと、せっかくの地域の社交場なので、ここのチャーシューを肴にビールを飲んで、〆にラーメンを食べたら最高なのかもしれない。

 

名称:味な店 成華

場所:鶴岡市下名川字落合27

営業時間:11:00〜14:00/17:00〜19:30

定休日:火曜日、第二水曜日

駐車場:有り(店舗に隣接)